事故を起こすと気になるのが「修理費用」ではないでしょうか。どれだけ保険会社が支払ってくれるのか、それに大きく関わるのが「全損」と「分損」という考え方です。
車両保険の場合、保険金額内で修理が完了すれば分損となり、保険金を越えてしまうと全損になるという基準があります。そして全損と分損によって、受け取る保険金額は変わってきます。全損は「買い替え」を前提とした保険金の支払いになるため少し特殊なのです。
この記事では、全損と分損の違いをはじめ、全損になった時の保険金の支払いまで詳しく解説していきます。
大手損保会社にて、自動車事故後のお客様対応をしていました。主な仕事は、保険金の支払いしたり、契約者様の代わりに相手方と示談をすることです。一年に数百件の事故担当をしたこともありました。事故が起こった時に気を付けるポイントなど、保険会社の目線で詳しく伝えたいと思っています。また損害保険募集人の資格も持っていますので、保険の知識を生かして、保険の意義についても伝えていきたいと思っています。
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目次
自動車保険における「全損」と「分損」とは?
事故で車が破損すると、その状況に応じて「全損」と「分損」という区別が行われます。それを决めるのが「修理費用」です。
修理不可または車両保険を上回る場合は「全損」
全損と認定されるケースは、2種類あります。
- 損害がひどく修理不能の状態であること
- 修理費用が車両保険金額を上回っていること
内部まで損傷がある場合は、全損の可能性が高いです。特に車同士の接触は全損になりやすいケースと言えます。動物との接触でも全損になるケースもあります。
車両保険金額内で収まる場合は「分損」
修理代が車両保険金額で収まる場合は分損となります。軽微な事故や、内部に損傷が少ない損害は、分損と考えて良いでしょう。
全損事故には「物理的全損」と「経済的全損」がある
全損には「物理的全損」と「経済的全損」という二つの考え方があります。
修理不能なほど大破すれば「物理的全損」
車が大破しているなど、物理的に修理ができなければ「物理的全損」とみなされます。
「内部骨格まで損傷」が物理的全損の基準
物理的全損では「自動車の内部まで損傷があるか」がひとつの判断基準となります。内部まで損傷が達していると、多くの場合では修理不可です。
修理費が車両時価を超えれば「経済的全損」
修理費が車両金額を超えても「経済的全損」として全損扱いになります。損傷が小さく修理できるケースでも、修理費が車両保険金額を超えれば全損扱いです。
自車の場合「車両保険金額=保険会社が定める車の時価」ですので、年数が経っている車ほど経済的全損になりやすいです。
保険会社は全損か分損をシビアに判断する
全損は保険会社にとっては支払いがかさむため、全損か分損かはシビアに判断されます。全損になりそうな事故の場合は、車の鑑定人が現車を見ることも多いです。内部損傷を確認したり、事故状況と損害状況の確認をすり合わせることも多々あります。
全損でも支払われる保険金は「時価」が上限
自車の場合、「車両保険金額=保険会社が定めた時価」となりますので、保険金を越えた支払いは行われません(ただし特約などの諸費用があれば例外)。車両保険金額を越えた修理をしたいということであっても、支払われるのは車両保険金が上限となります。
注意して欲しいのは、相手車や相手の所有物への賠償のケースです。こちらが賠償しなければならないのは、あくまでも「時価額まで」です。これは法律でも認められていることであり(過去の判例あり)、相手が時価を越えた修理費の賠償を求めてきても応じる必要はありません。あくまで示談するために払うかどうかを決めていくだけです。
全損事故に備えるには車両保険の設定金額が重要
自分の車を全損から守るためには、車両保険の設定金額が重要となってきます。ポイントは「高めに設定する」こと。車両保険金額を高めに設定すると、全損になっても保険金が多くもらえます。全損では車を乗りかえることが前提となりますので、1円でも多くも受け取れる方が、手出しが少なくなります。
ここで「車両保険金額が高くなると、保険料も上がってしまうのではないか」と心配される方がいらっしゃるかもしれません。しかし、年間数千円の保険料値上がりを考慮したとしても、数十万円高めに設定できれば受け取る金額が多くなります。車両保険金額は、レッドブックや市場価格から車両金額を算出されますが、保険会社によっても、提示金額が異なる場合もあります。現在の車両保険金額を見直したい人は、複数社で見積もりを取ると良いでしょう。
全損事故の備えになる特約は?
ご自身の車を守るためには、車両保険金額の設定以外にも「特約」が重要です。下記の6つの特約に入っておくと安心でしょう。
- 全損時修理費特約
- 全損時諸費用再取得時倍額特約
- 新車特約
- 地震・噴火・津波危険「車両全損時一時金」特約
- 対物超過特約
- 無過失特約
全損時修理費特約
車両が全損になった場合に支払われる特約です。支払われる金額は、保険金額の10%が上限である場合が多いです。保険会社にもよりますが、最大20万円など金額の上限が定められている所もあります。
全損時諸費用再取得時倍額特約
車が全損となり、新しい車を取得すると支払われる特約です。先ほどの全損時諸費用保険金が倍額で支払われます。
車を再取得する場合は、取得税などの諸費用がかかります。お客様の負担を軽くしたいという保険会社のお見舞の気持ちだと捉えてください。
新車特約
自車の初年度登録から期間が浅い場合であれば、新車特約が適用されます。車両保険金額の指定以上の損害を受けた場合に、保険金額満額が支払われるケースもあります(保険会社による)。
「せっかく新車を買ったのに、全損になってしまった。そのまま事故車にのるのは精神的に辛い」というお客様に対応した特約です。
地震・噴火・津波危険「車両全損時一時金」特約
地震・噴火・津波により、お車が全損となった場合50万円が支払われます。車両保険金が50万円未満の場合は、車両保険金額の額面が支払われます。
地震・噴火・津波については、車両保険は免責となり1円も支払われません。心配な方はこちらの特約を付帯しておきましょう。
対物超過特約
相手方の車・モノを賠償する時に役立つ特約です。相手が時価額を超える修理を希望し場合に、時価に上乗せして修理費を支払うことができます。上限金額は保険会社により異なりますが、相手の希望にこたえることができます。ただ、お互いに事故の責任割合が発生する事故であれば、上乗せした修理費の割合分を賠償することになります。
無過失特約
相手からの一方的な事故(もらい事故)で役立つ特約です。条件を満たせば、車両保険金を受け取ることができます。しかもノーカウント事故扱いで利用できるので、何のデメリットもありません(もちろん等級も下がりません)。
相手がいる事故では「全損」をめぐってもめやすい?
相手がいる事故では、どちらかの車が全損になると示談まで時間がかかるケースがあります。原因は、法律的な賠償責任は時価額が上限だからです。こうなると「修理して欲しいのに修理してもらえない」「乗り換えするにしても時価賠償では少なすぎる」という状況に陥ってしまいます。また車両保険金額を高めに設定してあっても、相手からの時価査定となると、価格が落ちてしまうことも多くあります。できるだけ揉めずに示談するためには、「対物超過特約」と「車両保険」を付帯することお勧めします。相手の方に時価を越えての修理希望があれば、「対物超過特約」で対応できます。相手からの時価賠償では少なすぎるという状況でも、少しでも時価接待が高い「車両保険」があれば見出しが少なく乗り換えることもできます。
モノにも全損・分損があるのか?
自動車事故の場合、モノにも損害が出る場合があります。例えば、民家を壊してしまった、道路標識やガードレールを壊してしまったなどです。さらに相手の車に乗っていた付属品や積載物にも損害ができることがあります。
基本的には、モノには価値があると考えられています。そして価値がある以上、全損・分損の考え方があると考えておいた方が良いでしょう。
ただ、物は経年劣化ししていきますので、時が経てば価値が下がっていくという減価償却という考え方があります。実際に車やモノ時価を算出する際は、減価償却や市場価値を調べて時価を出していきます。先ほどの話にもあったように、法律上は時価賠償で問題ありません。ただ、自動車事故の場合円満に示談する事が目的ですので、場合によっては現状復旧することもあります。
全損になると所有権は保険会社に移行する
自車が全損になり、保険金の支払いを受ける場合、所有権は保険会社に移行することを覚えておきましょう。保険金の支払いと引き換えに、自車の権利を渡す格好になります。保険金を受け取り、加えて自車を引き取ることができないので注意してください。また、自車がリース契約であった場合、リース会社に優先的に保険金が支払われます。
まとめ
- 自車に損害があった時、修理費によって全損・分損が決る
- 全損には、物理的に修理不能な「物理的全損」と、修理費用が車両保険を上回ってしまう「経済的全損」がある
- 車両保険では、全損になれば車両保険金額の支払いが上限となる(諸費用は除く)
- 自車が全損となれば、諸費用がもらえる特約がある
- 損事故に備えて、車両保険金額や特約の見直しをこまめに行うと良い
全損になる事故は、自車も相手車も被害が甚大になるケースが多いです。そのため、全損での時価賠償の考え方をしっかり身に着けておくことと、車両保険金額の見直しをしておくことが大事でしょう。
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